CEDEC 2011 エキスパート対談

~ 「特許申請の優遇措置(新規性喪失の例外)」って何? ~

今年、CEDEC 2011より、本番での講演内容が特許法第30条で規定される「新規性喪失の例外」対象となりました。でも、なんだか難しくて良くわからん、という方がいらしても不思議ではありません。そこで今回、株式会社バンダイナムコゲームス 事業推進統括 事業推進本部 特許部 特許課 恩田明生さんと、株式会社スクウェア・エニックス 法務・知的財産部 樽見俊明さんにお願いして、開発者の方にもわかりやすいように、このメリットをご説明頂きました。
司会は、CEDEC運営委員会委員長の吉岡です。

吉岡:恩田さん、樽見さん。本日はお忙しいところお時間を頂戴しましてありがとうございます。今年のCEDECから「指定学術団体イベントとして、特許申請の優遇措置(新規性喪失の例外)対象に」なった (参照:2011年2月14日付プレスリリース) のですが、どうも良くわからないという方もいらっしゃると思います。我々運営側としては、この施策によって少しでも講演の敷居を下げたいと思っての事ですから、皆さんにできるだけわかって頂きたいなと思っています。そこで、恩田さんと樽見さんという法務知財を専門とされる方にご説明頂こうという趣旨の対談となります。よろしくお願いいたします。


恩田・樽見:
よろしくお願いします。


吉岡:さて、最初の質問ですけど、ぐっと基本から。そもそも「特許」って何ですか? 開発者の皆さんも、特許の存在はご存知と思うのですけど、改めて説明してみろと言われると困っちゃう方もおられると思いますので。


樽見:新規かつ有用な発明をなした者に与えられる独占排他的利用の権利です。発明の内容を説明した書類を特許庁に出願し、これが登録となることによって特許が付与されます。


吉岡:「新規かつ有用」? 「独占排他的利用」?


恩田:凄く簡単に言うと、国家が、発明をした人(企業)に、一定期間の間、その発明の独占権(販売、実施等)を与えることで、ある発明に対して、特許が取られてしまうと、他の人は、原則それを使ったり、その発明を備えた商品を売ったりすることはできなくなります。


吉岡:ちっとも簡単じゃない(笑)。つまり、国に発明を届け出て認められれば、しばらくの間、それを独り占めできるということでしょうか? 逆に、他の人や会社に特許を取られてしまうと、それを使う事ができなくなるということですか?


恩田:運がよく発明をした人の許可が得られれば、もしかしたら、発明を使用することができるかもしれません。これは、ほぼ万国共通の制度になっています。細かいところは国ごとに異なりますが。


吉岡:どんなものが特許になるか教えて頂けますか?


恩田:ゲーム業界で考えた場合、新しいゲームシステムやゲームアイデア、CGの新たな手法、仮想カメラの制御方法、ネットワークでの通信制御方法、さらには、音の制御方法など、ゲームに関するありとあらゆる新規の要素が特許として認められる可能性があります。
特に、ゲーム業界は、マネされやすい業界であり、他社から特徴を真似されたくない場合、ほぼ唯一、自社のゲームの特徴を保護できるのが、特許になります。


吉岡:ここまでのお話だと、何かちょっと意地が悪い感じがしますね(笑)。でも、国が意地悪のし合いっこを助けるわけないと思うんですが、何か狙いがあるのですか?


恩田:元々特許法は産業の発達に寄与することが目的です。


吉岡:いい発明は国が管理して、なるべく皆が使えるようにする。そうすれば、国全体の産業が助かりますものね。でも、発明者にメリットが無いと、そもそも登録してくれないから、しばらく独占することを認めるというわけですね。国全体としてのメリットはわかりました。でも、CEDECで講演するのは個々の開発者の方です。この人たちにとっては、どんなメリットがありますか?


樽見:特許が付与されることで、開発者またはその開発者が所属する企業が、この発明の実施を独占できるという点にメリットがあります。たとえば、画期的なゲームシステムで特許がとれた場合、他社はこのゲームシステムを真似たゲームを作ることができないということになります。


恩田:制度としては樽見さんの説明で全てですけど、ビジネス面から見た大きなメリットとしては、自社製品、サービスの差別化に貢献することが上げられます。
自分が新たに開発した、ゲーム仕様や、表現方法が特許化されることにより、他社がマネができません。これは自社の製品の売りの部分を維持し続けることに貢献します。
また、自社で使える技術を確保できるなどが上げられます。
また、よい発明については、すぐに事業化までには至らなくても、特許を取得しておくことにより将来の事業実現のための先行投資にもつながります。


吉岡:なるほど、確かに自分がいる会社がうまく商売できれば、給料も上がる(かも)という事ですね。それは、でかい。逆にデメリットはありますか?


樽見:特許出願をすると発明の内容が公開されるので、貴重なノウハウを他者に知られてしまうというのがデメリットでしょうか。たとえば、プログラム特許を出願した場合、特許出願の書類にそのロジックの特徴部分、つまりノウハウの部分が記載され、公開されてしまいます。


恩田:そうですね。ノウハウとして秘密にしようと思っていたものについては、特許出願をしたら必ず公開されてしまうので、そういったものについては特許出願をしないほうがいいでしょう。


吉岡:独占権をもらえるかわりに、産業の発展のため、みんなに公開しなさいというのが特許なのですね。良くできた仕掛けですね。で、今回の「特許法30条」とは何でしょう?


樽見:それを説明するには、まず特許が認められる要件の1つに発明の「新規性」というものがあることをお話ししなければなりません。


恩田:そうですね。特許の出願前に発明の内容が、広く世の中に知られてしまうと、特許庁は、その発明に対して特許を認めてくれません。


吉岡:今までにない発明じゃないと特許にならないのですね。


恩田:そうです。特許が登録になるのに、新規性(全くあたらしいものであること)、進歩性(改良や進歩が、格段にあること)の条件を満たしている必要があります。出願前に発明の内容が公開されてしまうと、この新規性を失うことになってしまい、特許を取得することができなくなってしまいます。


樽見:従って、特許出願前に公開してしまった発明は新規性が喪失したとして特許を受けることができないのが原則です。


吉岡:それは困りましたね。それでは、申請する前にCEDECみたいな公の場所で話したら、特許を取れなくなってしまう。


樽見:しかし、学術団体での研究発表など、特定の条件の下で発明を自ら公開した場合には、発明の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定が設けられています。これが特許法30条です。ただし、特許法30条で新規性が喪失しないものとして取り扱われるためには、研究発表などがされてから6ヶ月以内に特許庁へ出願をする必要があります。


恩田:なので、仮にCEDECの講演で発表した内容に発明があった場合でも、一定の期間に特許出願を行えば、新規性を喪失したことにはならずにすみます。


吉岡:なるほど。今回CESAが「特許庁長官が指定する学術団体」になったことで、CEDECでの発表は、この例外規定の恩恵を受けられるようになったわけですね。ちょっとだけ、後だしジャンケンを許してくれると。仕組みはわかりました。でも、なんだか複雑な法律ですね。どうしてこのような法律があるのですか?


樽見:もし新規性喪失の原則を貫くならば、研究発表前に特許出願を完了しなければならないという大きな負担を開発者に強いることとなり、その結果、研究の早期発表が難しくなります。特許法30条を設けることで、特許出願の負担を軽減し、もって研究の早期発表を促進させ、技術の進歩発展に寄与することがこの法律の存在理由です。


恩田:その通りです。元々特許法は産業の発達に寄与することが目的であり、学術発表等で特許出願をする価値があったにも関らず、なんらかの理由でそれを見過ごしてしまい、もしくは出願できる価値を無くすようにしてしまうのは、ちょっと厳しいのではないかということで、この制度は存在しています。


吉岡:国もなかなかやりますね。確かに、色々な知見をお互いにやりとりすることで産業は発展していく側面がありますものね。これは、CEDECの狙いそのものです。CEDECで講演する場合、これはどのように役立ちますか?


樽見:CEDECでの講演が済んだ後に特許出願の検討をすることも可能となるので、講演準備時の負担が大いに軽減されます。


吉岡:確かに、CEDEC前はより良い講演にするために、講師の方々は大忙しです。少しでも負担が減るのはいいですね。この規定の対象は国内だけですか? 最近は海外展開なども盛んですが、海外での扱いはどうなるのでしょうか?


恩田:特許法30条は日本の制度ですから、原則、対象になる発表は国内向けのものになります(一部例外もあり)。特許は、原則、それぞれの国毎に出願する必要があり、また、法制度もそれぞれ異なります。


樽見:例えば、海外の出願先として最もポピュラーな米国では、異なる制度により講演後の特許出願の場合も新規性が喪失されないことがあります。しかし、なかには欧州などのようにCEDECでの講演によって新規性が喪失されてしまう国もあります。発表予定の技術を海外で特許出願するのかどうか、出願するとしてどの国で特許出願すべきかは、予め検討しておいたほうがいいかもしれません。


吉岡:国の政策ですから、国ごとに違う法律になっているのですね。となりますと、やはり万全を期すには相談相手がいたほうがいいですね。どんな人に相談したらいいでしょうか?


樽見:社内に知的財産担当者または法務担当者がいらっしゃれば、その方に相談するのがいいでしょう。つまり、スクウェア・エニックスなら、私のところに相談しに来てください。もし、知的財産担当者がいらっしゃらない場合は、特許事務所の弁理士にご相談されるのがよろしいかと思います。


恩田:知財部や、特許部がある場合には、その担当者の方へ。バンダイナムコなら、私へ(笑)。そういった部門が無い場合は、お付き合いのある、弁護士さん、弁理士さんに相談されることをお勧めします。その他、弁理士さんの団体であり、日本弁理士会とかでも、無料相談会等をやっていたりします。なお、守秘義務契約を締結していない状況等での相談については、具体的な発明な内容についてまでは、お話されないことをお勧めします。


吉岡:普段、開発に一所懸命な方々にとっては、法務知財部の方々は遠い存在に思えるかもしれないですけど、心強い味方がいるということですね。お互い専門家なのですから、遠慮しないで相談したほうが得ですね。


樽見:はい、ぜひ怖がらないで相談しに来てほしいです。私たちも、より良いゲームを作るお手伝いをする「開発者」の一員ですから。


恩田:樽見さん、いいこと言うなあ。そう、その通り。ぜひ皆さんの開発をお手伝いさせてください。


吉岡:頼もしいですね。本当に、皆さん、同じ仲間ですからどんどん相談しましょう。あと、違う分野の専門家の人と話すととても勉強になると思います。この面からもおすすめです。それでは、このへんでお開きにしましょうか。恩田さん、樽見さん、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。


恩田・樽見:ありがとうございました。

対談者プロフィール

吉岡 直人
CEDEC運営委員会委員長
株式会社スクウェア・エニックス

恩田 明生
株式会社バンダイナムコゲームス
特許部
リードパテントエンジニア

1994年大手コンピュータ会社の法務部門に配属
1996年バンダイナムコゲームス入社
入社以降、特許業務全般に従事
特に、ビデオゲーム、ネットワーク関連を中心に、特許戦略立案、特許出願、権利化作業、訴訟対応等の業務を行なう。ビデオゲーム特許の黎明期から、現在まで、総合的に業務に従事。
2008年 米国特許庁での講演、その他、大学での学生向けの知的財産関連の講義等も行う。

樽見 俊明
株式会社スクウェア・エニックス
法務・知的財産部
マネージャー
2006年4月1日 株式会社スクウェア・エニックスへ入社

 

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