CEDEC 2019アカデミック・基盤技術分野インタビュー
~ゲーム業界から明るいフィードバックを求めてみては?

9月4日から6日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催される「CEDEC(コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス)2019」では、セッションの講演者を2月1日から4月1日まで募集している。

 

今回はCEDECのアカデミック・基盤技術分野におけるトレンドや、CEDEC 2019の公募で求めるトピックなどを、運営委員会で主担当を務める鳴海拓志氏にお話を伺った。

 


――まずは自己紹介をお願いします。

 

鳴海:東京大学でバーチャルリアリティ(VR)を専門にやっております。CEDECではアカデミック・基盤技術を担当しております。
 

鳴海 拓志

――昨年までのCEDECを振り返って印象的なことはありますか?

 

鳴海:ここ数年はやはりVRが盛り上がっています。VRでどうやってリアルな触覚を提示するかなど、視聴覚を超えるところの議論が活発ですし、今年もまだまだ注目しています。例えば剣を振った時、普通のコントローラではどうしても長いものを振った感じがしません。触覚のフィードバックと組み合わせることで、剣を振った時は長く感じ、盾の時には丸いもののように感じるとか、ぶつかった時の感覚をリアルにするといった研究は、国際学会でも出るようになってきています。そういうものがCEDECにも入ってきて欲しいと思います。

 

――VRはまだまだ研究の余地が大きい分野なのですね。

 

鳴海:はい。ほかにも昨年は、バーチャルYouTuberを始めとしたバーチャルキャラクターの講演も見られるようになってきました。以前は大きなモーションキャプチャシステムを使っていたものが、画像処理が進化したことで、単眼のカメラがあるだけでモーションや表情までキャプチャして反映できたり、その精度を上げたりしています。こういった話から、エンターテインメント業界とアカデミック分野の交流が活性化されるのではないかと期待しています。

 

 バーチャルキャラクターの話ではもう1つ、人間とAIをどうやって共存させていくのかがポイントだと思います。1人のキャラクターを演者が1人で演じていると、より多くのキャラクターが登場するような大規模なものを作るのは難しくなります。そこで普段はAIが動かしていて、お客様と接するところだけ演者さんが入ってくるといった方法があります。AIと人間の継ぎ目をわかりにくくすることも求められます。キャラクターAIとプレイアブルな人の融合を、バーチャルキャラクターでどう実現するかというのはすごく面白いトピックだと思います。

 

――まるで車の自動運転のようですね。

 

鳴海:研究分野として自動運転はとても参考になるところだと思います。自動運転に任せていると、何か変なことが起こるかもしれないので、途中で人間が介入しなくてはいけません。その介入の程度をうまくやってあげると気持ちよく運転している感じが出ますが、失敗すると自分の想定した動きとはずれた感覚になってしまいます。そこのマッチングの仕方は、これまでインタラクティブなものを作ってきたゲーム業界の人はよくわかっていますが、車業界の人にはそういう知見がありません。異業種だけれど繋がりがあるところ、特に基盤技術みたいなもので共通の観点があるところを、もっと発掘して繋げていきたいと思っています。

鳴海 拓志

――ここまでのお話しを伺っていると、それらの技術の裏にAIが大きな柱としてあるように感じます。

 

鳴海:やはりAIは注目されていて、具体的な使い方が広まってきたのがこの2、3年だと思います。それをどうコンテンツに結びつけていくかも、議論の中で少しずつ答えが見え始めていると思います。ゲーム業界での事例はエンジニアリング分野などで話していただけると思いますが、異業種でもまだゲーム業界の人が気づいていないんじゃないかと感じる方や、もっと基盤になりそうなAIの使い方を研究している方なら、ぜひこの分野に応募していただきたいと思います。

 

――そのほかに、こういう研究をされている方に講演して欲しいといった分野はありますか?

 

鳴海:CEDECでいつも評判がいいのは、心理学や認知科学をやられている先生の講演です。例えば自分達のゲームを定量的に評価するというのは、どこにアクセスすれば情報が得られるのかがわかりにくいと思います。心理学や認知科学の先生方が、こういう風に評価したらいいですよと積極的に言っていただけると、現場にはとても喜ばれると思います。

 

――ただ、CEDECは元々ゲーム業界の勉強会という立ち位置で、ゲーム業界の外の方には入りづらかったり、目につきにくかったりすると思うのですが。

 

鳴海:アカデミックな研究というのは、現場でどう使われるかを普段から想定しながらやるのは難しいものです。研究内容と、現場で欲しいと言われるものがマッチすると、そちらの方向性に伸ばしていくことができますが、我々研究者はそういう現場の声を聞きたくても聞く機会がありません。CEDECに出していただくと、アカデミック側からは想定していないような使い方や、改善の意見を率直にいただけるので、とてもいいと思います。

 

――他にも様々な業界がある中で、研究者がゲーム業界と繋がることの魅力は何でしょうか?

 

鳴海:ゲーム業界は比較的動きが早くて、いろんなことをやる自由度が高いと思います。製造業などでは、1つの物を作るのに長い時間がかかりますが、ゲーム業界では一部分だけ簡単に試してみるという動きがあります。研究も動きが早い業界とやる方がいいですし、新しいことをやるのにも積極的な業界なので、一緒にやらせていただいていて楽しいですね。

 

――では最後に、応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

 

鳴海:CEDECというのは、論文を出して発表して業績になるという場所ではないので、どう関わるべきか悩んでいる方もいらっしゃると思います。研究者というのは、今まで見えていなかったものが見えるとすごく嬉しいので、自分の研究が想定とは全く違う文脈で使ってもらえそうだったり、意外な着目点から新しい発見がありそうだというのがわかると、とても喜びます。そういうことは他のジャンルに攻めていってフィードバックをもらわないと気づけないですし、CEDECの人達はポジティブなフィードバックをいっぱいくれることが多いと感じます。

 

――それはゲーム業界のいいところですね。やはりみんなを楽しませようというのが土台にありますから。

 

鳴海:そうですね。人を楽しませたいという目標に向かって議論してくれるので、とても楽しくて有意義な場所だと思います。そういう場所を求めている方はぜひ応募していただきたいと思います。あと応募される方へのおすすめとして、トークだけでなくインタラクティブセッションにも合わせて出してください。VRでの触覚のフィードバックみたいなものは体験してみないとわかりませんし、この業界の方の理解も進んで、より具体的な話に繋がっていくと思います。

 

――ありがとうございました。

 

 

石田賀津男(フリージャーナリスト / http://ougi.net)