CEDEC 2019サウンド分野インタビュー
~最新技術だけでなく、純粋な音作りの知見も求む!

9月4日から6日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催される「CEDEC(コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス)2019」では、セッションの講演者を2月1日から4月1日まで募集している。

 

今回はCEDECのサウンド分野におけるトレンドや、CEDEC 2019の公募で求めるトピックなどを、運営委員会で主担当を務める岸智也氏にお話を伺った。


――まずは自己紹介をお願いします。

:株式会社カプコンでサウンドプロダクション室の室長をしております。CEDECでは一昨年からサウンド分野に関わっています。

岸 智也


――サウンド分野で扱う話題について教えてください。

 

:インタラクティブに変わっていくゲームの音に関わること全般を扱います。具体的に言うと、音を作る前の環境を構築するところから始まり、効果音や楽曲の制作、ローカライズも含めたボイスの収録や編集、アセット制作と管理、ゲームに実装するためのワークフローなどがあります。また現場寄りの話題だけでなく、信号処理や空間音響技術などの研究寄りな話題も含めて、制作技術や事例を扱っています。

 

――昨年までのCEDECやゲームのサウンド界隈で目を引いたトピックはありますか?

 

:コンシューマーゲームは次世代機が出て、それが現行機になるという繰り返しですが、今は現行機の時代で、技術がこなれてきて研究が深く進んでいく方向だと感じています。一方で、インディーゲームのようにちょっと遊んでみたくなるものが出てきていて、コンシューマーゲームの正統派の進化とは違う、ゲーム性に応じたサウンドのアプローチを取り入れたものが出てきたりして、個人的には面白いと思っています。またモバイルのタイトルでも先進的なサウンド技術を取り入れたものがあります。

――今年のCEDECで注目したいトピックはありますか?
 

:公式サイトで求めるトピックとしていくつか挙げています。まずはここ10年ほど、常にインタラクティブミュージックに注目しています。以前はツールを作るところから頑張ってようやくできていたのが、既存のツールで十分できるようになったので、演出としてどう表現しようかという方向に研究が深まっています。我々としては“ジェネレイティブ”という言葉を前に出したいのですが、ゲームに合わせて楽曲側がより柔軟に変化したり、曲をトリガーにしてゲーム側が動いたりという仕組みが、インタラクティブミュージックの進化系の1つとして面白いと感じています。そういった事例はどんどん講演していただきたいです。
 

――インタラクティブミュージックはゲームと切り離せない重要な要素ということですね。他にはいかがですか?
 

岸 智也

:次は3Dオーディオです。ゲーム業界では、VRが出てきた時に必要に駆られて出てきた感じですが、その技術はVRのヘッドマウントディスプレイを着けた環境だけではなく、普通のコンシューマーゲームやモバイルゲームに流用するという方向で注目しています。サウンドを聞く環境は、5.1chスピーカーが7.1chになり、頭上にも置かれたりしているわけですが、多数のスピーカーを置ける家はなかなかありません。最近は3Dオーディオをヘッドフォンで聞けたり、サウンドバーで上からの音が聞こえたりするものが出てきています。ヘッドフォンや普通のテレビなど、最終的なアウトプットまで考慮した形で音を作れるようになる、というのが1つのトピックだと思っています。

 

――3DオーディオはVRに欠かせない要素でありつつも、作るのはとても大変だと聞いています。

 

:処理負荷との戦いですね。3Dオーディオをまじめにやるのはまだまだ大変です。従来までの手法と新旧織り交ぜた様々な3D音響技術をハイブリッドで使っていかねばならないのが作る側としては大変です。その中で、いかにプレイしていて気持ちのいい表現をするのかを聞きたいです。

 

 次はツール・オーサリング環境の新概念です。数年前から、DAWがミドルウェアとリンクできる機能が登場し始めました。大量のボイスファイルなどをスクリプト処理できるツールも登場し、効率化が進められています。会社によって作っているゲームジャンルが違い、必要なサウンド処理も違ってくるので、それぞれカスタマイズ機能を作っているはずです。そういうものを発表してもらいたいです。

 

――音そのものというより、エンジニアリングに近い話題ですね。

 

:サウンドでもテクニカルな動きは重要になってきています。例えばゲームで地面の種類によって足音を分けたい時、地面のポリゴンに属性を指定する方法があるのですが、我々はグラフィックスのツールは使えないので、グラフィックス担当者に手間をとらせてしまいます。グラフィックスではテクニカルアーティストという仕事が存在しますが、サウンドのテクニカルアーティストはまだマイナーです。そういう動きをしている方の講演は、個人的にぜひ聞いてみたいです。

 

――それは3Dオーディオなども含めて、あらゆる分野に関わってきそうです。

 

:3Dオーディオの音の伝播も、背景のデータをもらって対応するのですが、そちらの作業に影響を与えずに進める方法は必要になると思います。以前はサウンドがプログラマに頼んで1音1音呼んでもらっていたのが、ミドルウェアによってサウンド側だけでできるようになりました。しかし今はより良いものにしようとした時、またサウンドだけではできなくなり、サウンド以外の人たちとどう連携すればいいのかが確立されていないという状態です。ただ、肩書はなくとも、自然とテクニカルな動きをしている人はいると思います。そういう人が、自分の仕事には発表する価値があるんだということに気づいてくれたら嬉しいです。

 

 あとはモバイルですね。ありきたりな表現ですが、モバイルでも表現力が増しています。コンシューマーゲームに近いことができるようになった、とも言われるのですが、そもそもサウンドの聞かれ方が違います。その違いを理解して、モバイルならではの音作りをしているという講演をぜひ聞きたいです。

 

――電車の中で音を出さないとか、5.1chに繋いだりしないなど、音の出方も大きく違います。

 

:音を出さないのもしょうがないことです。コンシューマーゲームのようにオーケストラで収録したくなったりするのもわかるのですが、そもそも聞かれなかったらもったいないですよね。そういう方向ではなく、聞かれ方を意識したサウンド作りの話を聞きたいと思っています。

 

――他に今年注目したい話題はありますか?

 

:今年新たに足したトピックとして、機械学習やディープラーニングなどのAI関連があります。学会レベルだと、機械学習を使った音声処理みたいなものが出てきています。ゲームで使えるのはまだまだ先だと思いますが、学術レベルでは現状はこうだという話を聞けると面白いと思います。

 

――ゲーム的な面白い活用方法の青写真はあるのですか?

 

:今はまだわかりません。ただ学会ではかなり盛り上がっていて、AI関連の話題の時だけは重鎮と呼ばれるようなベテランではなく、若手の研究者がぐっと多くなります。それを見ていても、確実に流れが来そうだなと感じます。

 

――ちなみにご自身が聞いてみたい講演はありますか?

 

:CEDECは技術的な場として見られがちですが、純粋にアーティストとして、音を作る時にこうしていますという話は聞いてみたいです。立場はどうあれ我々はクリエイターなので、サウンド作りの根源的な話はいい刺激になると思います。

 

――では最後に、応募を考えている方々に向けてメッセージをお願いします。

 

:トピックとして挙げている話題を見ると、ちょっと難しいとか、新しいことを話さなければいけないのかと思われそうですが、新しいものが全て正解というわけではありません。純粋に音を作るのも大事なので、普段ちょっと工夫していることを話していただくのも大事です。自分の武器を明かしたくないという方もいるかもしれませんが、CEDECなどの場で話すことによって、多くのフィードバックをもらえて、新たな考え方があることに気づけます。自分にとっても良い循環になるよう、前向きに話していただきたいと思います。

 

――ありがとうございました。

 

 

石田賀津男(フリージャーナリスト / http://ougi.net)