CEDEC運営委員長、副委員長インタビュー
~これからのゲーム業界を支える若手の講演も求む!

CEDEC事務局では、9月4日から6日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催される「CEDEC(コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス)2019」の講演者を、2月1日から4月1日まで募集している。

「CEDEC」は昨年の「CEDEC 2018」で20周年の節目を迎えた。参加者数は年々増え続け、昨年も過去最多となる8,890人が参加した。セッション数も過去最多の254となり、ゲーム業界の内外から様々な分野の講演者が登壇している。

「CEDEC 2019」では「Keep on Moving!」というテーマを掲げている。このテーマに込めた思いと、現在実施中の講演者公募に関して、CEDEC運営委員会で委員長を務める中村樹之氏と、同じく副委員長を務める齊藤康幸氏にお話を伺った。


――まずは自己紹介をお願いします。

中村 :株式会社セガゲームスの開発サポートを行う部署でマネージャーをしております。CEDEC運営委員会では委員長を務めて3年目になります。

齊藤 :株式会社ヘキサドライブの東京支社の責任者をしております。CEDEC運営委員会では副委員長と、公募の審査などを行うセッションワーキンググループのリーダーをしております。

中村 樹之 齊藤 康幸
左:齊藤氏 右:中村氏

――昨年のCEDECを振り返って、いかがでしたか?

中村 :CEDECは昨年で20周年の節目を迎えたことに合わせて、コンピュータエンターテインメントがどのように変わってきたのか、さらにこの先10年、20年はどのように取り組むべきかということをテーマに掲げました。基調講演では、10年前にもご登壇いただいた任天堂の宮本茂さんと、日本のインターネットの父と呼ばれる慶應義塾大学の村井純先生にお話しいただきました。さらにセッションでは、「ゲーム製作の20年の進化とこれから」、「ゲームグラフィックス20年の進化とこれから」、「ゲームAI技術20年の進化とこれから」という3つの企画も行いました。

――参加者の傾向に変化はありますか?

中村 :職種の比率にはほとんど変化がありません。全体的にはエンジニアが多いですが、最近はアーティストやプランナー、ビジネス系の方などにも広がりを見せています。業種では、3年ほど前にスマートフォン向け開発の方がゲーム専用機向け開発の方よりも増えた時がありましたが、2018年ではほぼ半々となっています。

――今年のテーマに込めた思いを教えてください。

中村 :今年のテーマは「Keep on Moving!」です。コンピュータエンターテインメントの開発に関わる人は、技術だけでなくサービスやユーザー、デバイスなど、全てに対して新しいものに常に向き合わねばなりません。CEDECとコンピュータエンターテインメント業界がさらに10年20年と発展して欲しい。そのために止まることなく動き続けていこう、という思いを込めています。
中村 樹之

――いわゆる次世代ゲーム機の話や、スマートフォンやVRのような目新しいデバイスが出る話も公式にはあまり聞こえてきていません。その中での「Keep on Moving!」というのは難しい課題ですね。

中村 :現時点での発表がなくとも、早晩出てくると思われる新しいプラットフォームに対して、おそらくこんなことができるだろうという未来は、技術目線でもある程度の予測をすることができます。そこに対してどう取り組むのかをCEDECとしてもフォローしていかなければならないと思っています。

齊藤 :例えばAIは以前からあるものですが、ニューラルネットワークを使ったディープラーニングによって飛躍しました。最近だと、以前は主流になれなかったクラウドゲーミングが再び注目されていて、5Gが出てくることで主流になるかもしれません。技術とマーケットが追いついてきてブレイクするものは、この業界ではめずらしくないと思います。

――今年のCEDECで注目されそうな話題はありますか?

齊藤 :AIとその根底にある機械学習が、ゲーム開発環境に効率化の目的で応用され始めたので、この先どう発展していくのか注目しています。またキャラクターAIのようなインゲームの要素にも機械学習の応用が進むと面白いと思っています。

――各ジャンルの担当の方々も、軒並みAIに注目されていました。

齊藤 康幸

齊藤 :以前はVRなどの新しいデバイスと体験による、新しいコンテンツの作り方が注目されましたが、次の波がAIだと思います。他にも新しい技術はありますが、紆余曲折を経ても消えずに残っていく技術としては、機械学習ベースのAIは注目されるべきだと思います。あとはレイトレーシングなどハードウェアの進化によって出てくる新しい表現技術もあるので、そういった最先端技術を手掛けている方の知見が得られると面白いと思います。

――公募に関して、今年特に求めている方向性があれば教えてください。

齊藤 :ゲーム業界全体の底上げをしたいので、もっと若い方にも登壇して欲しいと思っています。CEDECはベテランの方が高い技術を披露する場という印象が強いと思いますが、数多くのクリエイターがいるこの業界で、高い技術を持っている人しかわからない話だけを集めてはいけないと思っています。

ゲーム開発の規模が巨大化し、タスクが縦割りに細分化されることが多くなると、1分野でしか知見を伸ばせなくなります。1本の開発期間が長く、数年かけても僅かな分野にしか精通できないと、若手が開発の全体像を掴めるまでに何年かかるかわかりません。もちろん一つの分野に深く精通することも重要ですが、CEDECでさまざまな分野の話を学びに来て欲しいですし、若い方にも講演していただくことで、業界全体で知識の対流が起こるようにしていきたいというのが以前からの願いです。

――ゲーム業界の外からも講演者や来場者がいると思いますが、そこに向けての取り組みはありますか?

中村 :CEDECは“コンピュータエンターテインメントの開発者会議”ですが、今はゲームにフォーカスしています。日本のゲーム業界人の数をアバウトに試算すると、およそ10万人。昨年のCEDEC参加者が8890人なので、ゲーム業界の中でCEDECに参加する人は、1割にも満たないことになります。これでは誰もが知っていて、参加しているものとは言えません。まだまだゲーム業界の中で軸足を据えてやっていかねばならないと考えています。その上で、海外を含めた周辺業界の方々とも良い関係を築き、連携をするという形でここ何年かはやってきています。

齊藤 :セッションとしては、近しい業界、学会等の方々をお招きするコラボレーションセッションを実施しています。特にアカデミック系では、今後ゲームに使えるかもしれないエンターテインメント性を持った技術の展示や講演をお願いしています。これも、ゲーム開発者が見て先々に繋げていけることや、刺激を受けられるものを中心に考えています。

――これから公募される方に向けての注意点があれば教えてください。

齊藤 :公募フォームの書き方の例として、“カレーの作り方(https://cedec.cesa.or.jp/2019/koubo/example)”を掲載しています。ご応募いただいた全ての方に講演していただくのは難しいため、運営委員会で審査しており、公平性を保つために公募フォームに記載された内容のみで審査しています。その際に、講演の内容が曖昧だったり、技術的にフォーカスされている知見が読み取れない場合、不採択とさせていただかざるを得ません。記入にあたっては例をよくご覧いただいた上で、同僚や上司等の他の方にも見てもらうなどして、講演のどこに価値があるのかが伝わる内容になっているのかをご確認頂けると、書き方が原因で不採択となるとは減らせると思います。内容は期待できそうなのに、書かれてる内容からはそれが判断できないということで不採択になるものも依然ありますので、それは非常にもったいないと感じます。

――応募フォームの短い内容で要旨を適切にまとめるのは、なかなか大変な作業ですね。

齊藤 :我々も短い文章だけで良し悪しを判断するのはとても難しいです。しかし運営委員はボランティアで活動しておりますので、ご記入いただいた内容が不足していた場合に不明な点を改めてお尋ねするなどの作業は負担が大きく困難です。応募して頂く方にこういった書き方の注意点を周知し、ご理解頂くことが、CEDECの質を上げることにもつながると思っています。

内容については、技術レベルも大切ですが、誰に向けたどういう内容なのかを重視します。自分がやっていることはレベルが低いと思わず、誰かの、何かの問題解決に繋がるとか、知見を広げられると思える内容なら、ぜひ応募して頂きたいと思います。

――最後に、応募を考えている方へメッセージをお願いします。

中村 :「物事をオープンにすることのデメリットって何なんだろう?」ということを改めて考えていただきたいと思います。社内の特別な事情や特許に関わるような案件は別としても、技術や情報をオープンにすることで得られることの方がものすごく多いはずです。CEDECが始まった20年前に比べれば、会社も個人もオープンに活動できるようになってきましたが、それでもクローズな環境や考え方は根強くあると思います。

またこの20年で、コミュニケーションの手段は大きく変わりました。最近業界に入ってきた若い方々は、小さな頃からSNSなどのコミュニケーションツールがあり、ネットなどで情報を得ようと思えばいくらでも得られる時代に育ってきたと思いますが、面と向かってコミュニケーションを取る事の大切さや、多くの方と交流することの楽しさも、CEDECの場で味わっていただきたいなと思います。その経験を自分の成長に繋げていただければと思います。

齊藤 :CEDECの役割には知見の共有もありますが、コミュニティとしての存在も大きいと思っています。講演すれば、同じ問題意識を持つ方とコミュニケーションが取れて、自分達では気づけなかった解決方法が聞けるかもしれません。また自分達とは違う問題を抱えている方とコミュニケーションを取って、次に自分が直面するかもしれない問題に先にリーチできるかもしれません。CEDECで話すことに対するリターンはとても大きいと思います。

CEDECでは何度も講演されている方がとても多くいらっしゃいます。話したことで得たものが大きいので、もっと話そうと感じている方が多いのだと思います。ここに一歩踏み込んで見える景色は、それまでとは違うと思います。まだ講演されていない方は、ぜひ公募をお願いします。

――ありがとうございました。


石田賀津男(フリージャーナリスト / http://ougi.net)