受講スキル | ◎:物理エンジンの研究開発者 ○:ゲームシステム開発プログラマ △:ゲームタイトル開発プログラマ |
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受講者が得られる | 物理エンジンの仕組みと役割の理解。軌道追従制御・関節可動域・安定なばねダンパ・弾塑性変形・Featherstone法の物理エンジン(LCPソルバ)への組み込みかた。 |
物理エンジンは、運動方程式と接触や関節といった拘束条件を満たすように剛体を動かすことで、リアルな動きを作り出す。拘束条件を式で表して運動方程式と連立させると、線形相補性問題(LCP)になり、高速にシミュレーションできる。
LCPとは、一見1つの1次式に変数が2つあるように見えるが実はどちらか片方だけが動きもう一方は定数となるような問題である。これを解くのが物理エンジンなので、物理エンジンは、実は接触・関節だけでなく、様々な物・事を扱うことができる。
本講演では、まずこの物理エンジンの仕組みを理解して頂く。その上で、LCPの概念を少し緩めたり、物理エンジンの一部だけを2回走らせたりすることで、自由な制御や可動域設定をはじめとして以下のような様々な用途に活用できることを示す。
1. 軌道追従制御
軌道追従制御とは、目標軌道に正確に追従する制御法である。障害物や外力などが加わり、軌道が目標から外れても、フィードバックにより徐々に目標軌道に戻る。これにより、例えばキーフレームアニメーションを再生しながら、腕に物が当たった際には反動動作を自然に再現できる。物理エンジンを用いると、拘束条件を少し変えて0.5ステップ程度のシミュレーションを行うだけでこれが実現でき、フィードバックの強さもバネ・ダンパ係数として自由に設定できる。
2. 関節可動域拘束
関節は剛体間の位置関係を制限する。例えば球関節は並進運動を行わないように拘束する。球関節以外の関節も拘束する運動を変えることで実現できる。そのため、座標変換とLCPを用いることで複雑な関節可動域拘束を行うことができる。関節に可動域制約を与えることで、キャラクタのひじが逆に曲がるなどの不自然な姿勢を防ぐことができる。
3. 安定なばねダンパ
物理エンジンでのばねダンパは草木や動物・人間の体の柔軟性やスイッチやボタンなど様々な場面で利用されている。このばねダンパモデルもLCPに組み込むことができる。物理エンジンに組み込むことによって安定にばねダンパのシミュレーションを行うことができる。
4. 弾塑性変形
ばねダンパモデルにダンパをさらに追加した三要素モデルもばねダンパモデルと同様にLCPに組み込むことができる。この三要素モデルとばねダンパモデルを関節に加わるトルクによって切り替えることで弾塑性変形を実現できる。実世界の物体はほとんどが弾塑性変形するので、これにより物の変形をリアルにすることができる。
5. Featherstone法
Featherstone法は、関節でつながれた剛体のシミュレーションを、剛体の全6自由度を変数として持たずに関節角だけを変数として持つことで、高速かつ安定に計算する手法である。これを物理エンジンに組み込むことで、接触などの通常の物理シミュレーションとFeatherstone法の良いとこ取りができる。
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花岡 優介
電気通信大学
知能機械工学専攻
学生
電気通信大学 知能機械工学科 卒業
電気通信大学大学院 知能機械工学専攻 在学中 -
須佐 育弥
電気通信大学
知能機械工学専攻
学生(博士課程)
2010年3月 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 知能機械工学専攻 博士前期課程修了 修士(工学)
2010年4月- 電気通信大学大学院 情報理工学研究科 知能機械工学専攻 博士後期課程知能機械工学専攻 博士後期課程 -
長谷川 晶一
東京工業大学
精密工学研究所
准教授
1997年東京工業大学工学部電気電子工学科卒業.1999年同大学院知能システム科学専攻修士修了.ソニー株式会社入社.2000年同大精密工学研究所助手.2007年電気通信大学知能機械科准教授.2010年東京工業大学精密工学研究所准教授,現在に至る.EuroHaptics2004,EuroGraphics2004,ACE2005 Best Paper Award,日本VR学会論文賞,貢献賞など受賞.バーチャルクリーチャ,物理シミュレーション,バーチャルリアリティ,力触覚,ヒューマンインタフェース,エンタテインメント工学,知能ロボティクスの研究に従事.
《講師からのメッセージ》